転々

trifle2007-12-09

映画「転々−てんてん−」オフィシャルサイト
オダジョー好きやし、三木さんの「亀は意外と速く泳ぐ」も「イン・ザ・プール」もおもしろかったし、「時効警察」のキャスト勢揃いなので、前売り券も買ってわくわくしながら待ってました。単館系やから?それとも京都だけ?なんか、前売り券が、ものすごく安っぽい紙やった・・・。
ものすごく、ゆるい。そこはかとなく、ゆるい。三木聡監督は、いつもゆるいのだけれど、今回はとことんゆるさ全開。スピード感もなにもあったもんじゃない。そのわりに、退屈しないのはテンポがいいからなんだろうな。お得意の小ネタもあって、くすりとときどき、笑う。地味だけど、なんとなく、魅入ってしまう。ひたすら東京の街を散歩している話だけれど、そんななかで、擬似的な家族愛が描かれている。家族とうまく交われなかった人間たちが、ふふみという媒体をとおして、家族の在り方を感じる。遊園地のシーンなんて、なんだかじんわりと切なくなってしまった。ふふみの無邪気さがまた、切なさを増す。三木さんの作品って、いつもつくづくブラックで変だなあと思っていたけれど、今回は、心が温かくなった。前作の「図鑑に載ってない虫」もロードムービーだったし、今回の「転々」も同じロードムービーではあるのだけれど、印象がまったく違う。今までの三木作品の延長にあるのは「図鑑〜」のほうで、こちらは三木さんの新境地なのかもしれない。もちろん三木さんらしい小ネタも満載で、ブラックな世界もあるのだけれど、それだけじゃなく温かさや優しさが全面に押し出されている。いつもの三木さんを期待している人は、正直期待はずれと思うかもしれないけれど、三木さんのこうゆうじんわり染みる淋しさや切なさもいいなあと、わたしは思った。あとから、じんわりとくるのは、三木さんらしいというか。映画館が号泣!感動の嵐!じゃなくて、ゆっくり染み渡るような、水道の蛇口をすこしだけひねって、ゆっくりと水が溜まってゆく感じ。切なさや淋しさを伝えたいのだけれど、素直に伝えるのはなんとなく苦手で、笑いではぐらかしているような印象を受けた。
キャスト、文哉役のオダギリジョーは、やっぱり三木ワールドにははずせないよねえ、とわかるのだけれど、なぜに三浦友和?!でも、なんかよかった。三木ワールドに見事にずっぽりはまってらして、違和感ない。しかもすごくいい味が出てて、オダジョーよりも目立ってたかも。主役はオダジョーなんだけど、その主役の目から見る福原さんが、とても愛らしく思えてしまって。オダギリジョーももちろん良かった。オダジョーの演じるダメな男って、なぜだか愛おしくて嫌いじゃないんだよね。演技してるのか素なのかよくわからない、自然な感じがさすがというか。ふふみ役の吉高由里子ちゃん、はじめて見たのだけれど、いいなあ。テンション高いしうるさいんだけど、可愛いバカ設定がぴったり。でもインタビューなんかを見ると、本当はすごくきちんとしっかりした子で。ふふみが出てきて、なんだかいきなり画面が引き締まった感じがした。存在感のある子で、これからちょっと注目したいな。麻紀子役の小泉今日子も悪くない。いつもは結構ぶっとんだ役が多いけれど、こうゆう家族(擬似ではあるけれど)の中のひとりという役柄だって違和感なくていい。アイドルだったキョンキョンもすっかりおばさんになってしまったけれど、温かい母親役ができるなんて、いい年の取り方をされたなあと思う。そして、あいかわらずの岩松了ふせえりコンビ。そこへ松重豊が投入され、トリオとなるのだけれど、それもまたおもしろい。重松さん、いい俳優さんだと思うけど、岩松ふせコンビと絡むとどうなの?!と思っていたけど、これまたいい。強面だけど、やっぱりコミカルの人だ。三人のちょっとブラックでシュールなやりとりも、この三人だからこそ「ええ?!ひどくない?」って思わないギリギリのラインで笑える。時効つながりの三日月君(麻生久美子)の登場も、岸部一徳の贅沢な使い方も、さすがな三木ワールドです。
時効ファンにはたまらないキャスティング。だけど、時効ファンじゃない人も、きっと楽しめる映画だと思う。観終わったあと、たまらなく散歩がしたくなって、並んで歩いて帰って、カレーを作って食べました。