アヒルと鴨のコインロッカー

trifle2007-08-12

アヒルと鴨のコインロッカー | 人生を変えるほどの切なさがここにある。
伊坂幸太郎さんの本は、何冊か読んでいるのだけれど、これはまだ未読。なので、なんの先入観やらネタバレやらなく、ありのままのミステリを楽しんでみようと思って。伊坂さんは、点々と散りばめられた出来事が、見事にリンクしていくところが、すごくじょうず。こう繋がるんだ!すげえ!と、そのリンクしていく様を、ぞくぞくしながらいつも読んでいる。前半はテンポの良さに、後半はそのリンクのすさまじさに、読むのが遅いわたしでも、さらさらと読み進められる。その疾走感を、映画ではどんなふうに演出され、感じられるのか、結構楽しみでした。ミステリの映画って、何を書いてもネタバレになってしまいそうで、言葉につまってしまうのだけれど。
音楽の使い方がうまいなあと、唸らされる。ボブ・ディラン「風に吹かれて」が、物語のキーなのだけれど、それが始終流れすぎてうるさいわけでもなく、だからなんなの?と思うほど不足しているわけでもなく。うるさくない程度に耳に残っていて、ところどころで出てくるたびに、いつのまにか口ずさんでしまいそうなほど。なんだか次第に自分のテーマ曲にでもなったかのような気分になる。終盤になると、そりゃこの歌うたってる人間に出会ったら、お近づきになりたいわなあ、と思う。最初、なんで椎名にそんな話を持ちかけたんだろう?って不思議に思っていたので、なんだかとってもすっきりした。たんに隣の人間なら誰でもよかったんじゃない。椎名だからこそ、だったんだ。
ストーリーとしては、なんだかちょっとうーむと思ってしまうようなところもあるし、この意図ってなんだったんだろう?と疑問に思うようなところもある。そのシーンが原作にもあるのかどうかはわからないけど。こいつは悪いヤツだから、何をされてもしょうがないだろう、みたいに感じられたところもちょっとなあ。悪いヤツだからといって、どうなってもいいわけじゃない。なんて言うと、偽善だろうか。ラストに、あまり救いが感じられなかった。うまくまとめたつもりかもしれないけれど、思ったよりも爽快感が得られなかった。前半と後半のテンポの違いも、なんだったんだろう?前半は、さくさくっとリズミカルに進んでいくのだけれど、後半のもたつき具合。前半で広げた伏線を回収していく際に、どうにもスピードが緩んでいく。本ではあんなにも後半もダッシュ力のある方なのに。伊坂さん特有の疾走感や爽快感というのが、あまりうまく出てないように思う。出来事が繋がる様は、さすが!と思うほど美しくぴたりとはまっていたのに。
ふたりの主役の濱田岳瑛太。そして、物語のカギを握る松田龍平。その三人の演技がすごくよかった。重い話と演技が続く中、濱田岳が出てくるとなんとなくほっとする。瑛太って、あんなに危なっかしい感じのする人だっけ?って思うぐらい、不気味な感じがはまってた。龍平はさすがって感じのぶっ飛んだ役。こうゆう演技をさせたら、この人の右に出る人はいないんじゃないかと思う。役者はよかったのになあ。見終わったあと、なんだかどんよりとしてしまった。救いがほしかった。