天然コケッコー

trifle2007-08-11

ガラスコーティングの効果と比較検討 | ガラスコーティングの効果
京都では、本日初日をむかえたので、さっそく観に行ってきた。くらもちふさこ原作やし、山下敦弘監督やし、渡辺あや脚本やし、くるり主題歌やし、なによりも、今いちばん大好きな岡田将生君が大沢君やしで、前売り券買ってうきうき待ってた。
少女漫画界の巨匠、くらもちふさこと言えば、誰もが一度は読んだことがあるんじゃないだろうか。少女漫画のスタンダードが、くらもちふさこの漫画にはある。普通っぽい女の子と、普通っぽい男の子が出会って恋をする。それも、劇的な出会いがあるわけでもなく、恋愛至上主義的な恋でもなく、なんだかほんわかした恋愛。だけど、そのほんわかした恋が、リアリティがあってきゅんとする。日常的で普遍的で、それでいて繊細な心理描写。読んでいると、学生の頃の淡い恋心を思い出すような、くらもちふさこの漫画はそういう漫画だと思う。映画では、そのくらもちふさこの世界が存分に内包されていて、原作のファンとしてはうれしくなる。山下監督は、「ばかのハコ船」以来好きなのだけれど、間の取り方がすごくじょうずで、惚れ惚れとさせられる。くらもちさん自体、微妙な間を描かれる方だけれど、その原作の微妙な間を見事に映像化されている。山下監督は、長回しを結構好んで使われているのだけれど、この作品でも効果的に使われていて、次になにが来るんだろうという危うさやドキドキ感が、恋愛初期の感覚と混じり、ぐいぐいと画面に引き込まれる。お祭でそよが泣き出すシーンも、そよが大沢君の制服のボタンをつけ直すシーンも、ラストのキスシーンも、本当に見事で。
映画の中のエピソードは、基本は原作のまま。だけど、少しずつ再構成されていて、つなぎあわせられている。基本エピソードを残したまま、映画としての繋がり、盛り上がり、尺なんかを考えて、きちんとおさめられている。多少は前後したり、修正したりはしているけれど、原作を知る人間から観てもその構成は不自然じゃなく、すんなりと受け入れられる。この渡辺さんの構成力はさすがだなあと思う。ただちょっと思ったのが、原作に忠実に描こうとしすぎていて、中途半端になりすぎてないかなあというところ。原作を読んだ人間としては、心の機微なんかがすごくよくわかったし、そうそう!と思うところが多かったのだけれど、原作未読の方はどう思われたんだろう。気づかない部分も多々あったんではないだろうか。
映画は、そよと大沢君が高校生になるまでの時間が描かれている。東京から来たちょっと気になる男の子が、好きな人へと変わる瞬間。一度目のキスは、なんてことなかった。二度目のキスで、ようやく恋や愛を知る。消えてなくなるかもしれないと思うと、些細なことでも急に輝いて見える。そういうことを感じて、ちょっとづつ大人になってゆく姿がすごく丁寧に描かれている。原作で好きなエピソードがある。修学旅行のワンシーン。みんなにお土産を買っているそよと大沢君の何気ない会話。そよの天然のすぼらで鈍感なところを、一度落として上げる大沢君。大沢君は、そよのこともそうだけれど、みんなのこともきちんとよく見ている。クールでずばずばはっきりモノを言うけれど、さりげない優しさと気遣いができる。そうゆう大沢君のいいところが、そのシーンにはつまっていて。原作を読んだときにすごく好きになったシーンだからこそ、映画に出てくることが嬉しかったし、原作の雰囲気がそのままだったことがさらに嬉しい。
そよを演じた夏帆ちゃんは、なんともその自然体が右田そよそのもので。演技がうまいのか、役柄がぴったりとはまったのか。岡田君はまだまだ未熟な感じが初々しくて、だけど透明感があって、生臭くない男の子って感じがしてすごくよかった。最初は、岡田君が大沢君ってあんまりイメージと違うなあと思ったんだけど、ストーリーが進むにつれてどんどん大沢君に感じられた。まだまっさらなだけに、どんな色にでも染まれるということなのかな。そよのお父さん役の佐藤浩市さんが、なんかすごくよかったなあ。それほど登場シーンが少ないからか、原作よりも丸みを帯びた感じがしたけれど、でもなんだかその父親っぷりが、すごくよかった。さっちゃん(宮澤砂耶)とカッちゃん(本間るい)も、子供とは思えない演技力で。とくに、さっちゃんの、お見舞いに来てくれたときにそよちゃんに抱きつくシーンは、演技とは思えなかった。本当にそよちゃんが好きなんだろうなあと感じた。あと、シゲちゃんがまんまシゲちゃんで、原作を知っている人間は吹き出してしまうと思う。
観たあとすごくあたたかくなる。ほんわかと心が満たされて、学生の頃の淡い恋なんかを思い出したりして。すごく日常的で刹那的で、きっと誰もがこんな淡い恋愛を経験しただろうからこそ、映画に浸ることができる。なんだか、自分の卒業アルバムを見返しているみたいで、ちょっと恥ずかしい気持ちもあったり。じんわり心が優しくなって。地味だけど、いい映画だった。