秋の日は釣瓶落とし/岡崎京子

秋の日は釣瓶落とし (アクションコミックス)

秋の日は釣瓶落とし (アクションコミックス)

なんというか、もう泣きそうになってしまう。作品自体もよかったのだけれど、作者の近況に。ほんとうにちょっとづつでも、岡崎さん回復してきてはるんやあ。事故にあわはったときは、ほんまに衝撃的で。その後、ずっと復活を待ち続けていたら、次々と新装版が発売されて、なんだかすごく哀しい気持ちになった。もしかしたら、もう復活の見込みがなくて、新しいのんはもう描けなくて、だからそのかわりに絶版になってしまったものをどんどん再販してはるんやろうか?なんて勘ぐったりして。いまでも、あたらしい作品を描かれているわけじゃないけれど、それでもこうして元気になりつつある近況を読むたびに、復活の日も近いんじゃないかと思う。待ってます、岡崎さん!
今回、発売された「秋の日は釣瓶落とし」は、未読のものだった。わたしがまだ岡崎さんに出会うまえの作品で、久しぶりに読むあたらしい感情。92年の作品だそうだ。東京ガールズブラボーからはまったことを考えると、その前年の作品。もう十数年まえの作品なのに、なんだか新鮮。岡崎さんらしいオカマちゃんも出てくるし、ストーリーも岡崎さんとしてはありがちだし、地味な感じだけれど。まさか、読んだことのない作品をいまになって読むことがあるなんて思いもしなかったからかなあ。リアルタイムでないのでなんとも言えないけれど、佐川だとか過労死だとか、たぶんそのときの時代を反映した作品なのだと思う。岡崎さんは、時代にすごく敏感なかただから。そう思うと、中高生のころに読んだときの衝撃と感動はもう得られないんだろう。感動はいまなおあるけれど、あのとき感じた感動とはまたちょっと違う感じ。うまく言えないんだけれど、追いつかねばと必死だったあの頃の感情。岡崎さんの作品を読むと、それを思い出されてなんだかせんしちぶになってしまう。しかし、ほんまにうまいなあ。ストーリーの流れとか感情の運び方とか表現の仕方とか。絵は個性はあるけど、うまいほうだとは思わない。だけど、その絵ですごく心が揺さぶられる。繊細な絵じゃないのに、繊細な感情が溢れていて。家族のありかた、人との関わりかたを、いろいろ考えさせる作品だった。じんわり切なく、じんわりうれしく。哀しみと喜びは紙一重なのだなと思う。
しかし、この薄さで1000円の価格をつけるとは、強気ですな。まあ、買っちゃうんやけど。ここらへんが、あたらしいファンの獲得というよりも、長年に渡るファンへのメッセージなんやろうなあ。祖父江慎さんの装丁も、すてきです。たとえばいま岡崎さんが漫画を描かれていたら、どんな時代を描いてくれるんだろうと、ふと思う。